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【Gallery Rin】京都レンタルギャラリー琳

連載:早春の茶事 Part1

  • 2 日前
  • 読了時間: 4分
ピンクの桃のつぼみが木の枝に咲き、しずくがついている。背景はぼかされ、優雅で静かな雰囲気を醸し出している。

多くの一席は、その日にはじまります。

けれど茶事は、そのずっと前から静かにはじまっているのだと思います。


道具を選び、客のことを思いながら趣向を考える。

そうした準備の中で、茶事は時間をかけて少しずつ形になっていく。


茶事の会の立ち上げ

2024年、私は茶事を実践するための小さな勉強会を立ち上げました。お稽古として学ぶだけでなく、実際に茶事を行いながら学んでいきたいと思ったからです。

知人に声をかけたところ、友人が5人手をあげてくれました。

全員が女性、家庭や仕事、子育てと両立しながらもぜひ茶事を勉強したいと集まってくれた大切な仲間です。


そして、この会の立ち上げの際に助言してくれた私の友人の存在。

彼が会の立ち上げの時に、背中を押してくれたことがきっかけで茶事の勉強が始まりました。

そんな彼が名付けてくれた会の名前は"幾久乃会"(きくのかい)。

幾久しく続くことを願って、素敵な名前をつけてくれました。


それ以来、私たち幾久乃会6人のメンバーで裏千家の業躰先生にご指導をいただきながら稽古を重ねてきました。茶事の構成、道具の扱い、露地のこと、そしてすべてをつなぐ静かなリズム。そうした要素を、少しずつ学んできました。



掛け軸と道具組

3月10日、今熊野観音寺 の茶室にて茶事を開きました。

今回は友人が亭主を務め、私は裏方として携わりました。


茶事の日を迎えるまでの数ヶ月、6人で何度も集まり、道具、料理、露地、そして細かな段取りまで、一つひとつ相談しながら準備を進めてきました。


茶事というと、当日の出来事—懐石、茶、客とのやりとり—が語られることが多いものです。けれど実際には、茶事の楽しみ、真髄、学びは客を迎えるずっと前の静かな準備の時間の中にすでに存在しています。



障子と畳の和室に飾られた黒い銅鑼は茶事で席入りを知らせる。落ち着いた雰囲気の伝統的な日本の小部屋。

客とテーマ

準備を進めるうえで、大切だったのは客のことを考える時間でした。


今回の正客は、亭主のママ友。子育ての時間をともに過ごしてきた、長い付き合いのご友人です。学校行事や小さなお祝いごとなど、日々の暮らしの中で積み重ねてきた関係です。

ちょうど子どもたちが進学といった節目を迎える時期でもありました。さらに今回の正客が裏千家の正教授の資格を最近取得されたばかりでした。そのため、この茶事は自然とお祝いの意味合いを持つ一会となりました。連客のお二人も、裏千家茶道を通じたご縁でお招きした方々です。


それぞれに茶の道を歩み、精進を重ねている方々でもあり、またそれぞれの仕事で新たな挑戦や節目を迎えれたタイミングが重なりました。この一会が、三人それぞれの歩みをそっと祝うような時間になれば。そんな思いで、道具組や趣向をみんなで考えていきました。


今回、テーマとして選んだ言葉は「桃始笑(もも はじめて さく)」


七十二候のひとつで、桃の花がほころび始め、春の訪れを告げる頃を表す言葉です。

冬を越えて桃の花が開きはじめるように、それぞれが積み重ねてきた歩みが、これから新しく開いていく。そんなイメージを、この言葉に重ねました。



和室の床の間。シンプルな畳の部屋に木製の縁取りが施された落ち着いたベージュの壁が特徴。静寂な雰囲気を感じさせる。

掛け軸を選ぶ

テーマが決まると、次に考えるのが床の間です。


茶事において掛け軸は、その一会の空気を決める大切な存在です。わずかな文字でありながら、その場の季節や気配を静かに導いてくれます。


今回選んだ軸は、鵬雲斎汎叟宗室による

「一花開五葉」


一輪の花が開くと、その中に五つの花びらが現れる。ひとつの花が開くことで、そこに広がる調和があらわれるという意味があるようです。


それぞれが歩んできた道が、この茶室でひととき交わる。今回の一会にふさわしい言葉のように感じられました。


畳の部屋に縦一列に並ぶ多くの箱。各箱にはリボンやタグが付いている。シンプルで落ち着いた雰囲気。

道具組という静かな作業

掛け軸と並んで大切なのが、道具組です。


茶の道具は単なる道具ではありません。それぞれに来歴があり、そして多くの道具には銘

があります。


銘は、風景や季節、あるいは古典文学の一節を思わせるような、詩的な名前です。

茶事の道具を組むとき、それらの名前や由来が、静かに互いに響き合います。掛け軸、茶碗、茶入、そして小さな道具まで。それらすべてが、ひとつの物語をつくっていきます。

この作業を道具組(どうぐぐみ)と呼びます。


完璧な取り合わせを目指すというより、静かな調和を探していく作業です。

祝いの気配を感じさせる茶碗や茶杓。早春を思わせる花。そして、それらを受け止める掛け軸。


話し合いは、ゆっくりと進みました。

ときにはただ黙って、目の前に並べた道具を眺めている時間もありました。


こうして茶事の準備をしていると、それはまるで静かな詩をつくるようにも感じられます。

言葉ではなく、道具と空間と時間で書かれる詩です。


客がそれらを見るのは、ほんの短い時間かもしれません。

けれどその一瞬は、何ヶ月もの思考と準備の上に支えられています。


茶事はきっと、道具を選ぶ、

その静かな時間、その瞬間からはじまっているのだと思います。


先生が茶事当日に水屋でかけてくださった印象に残った言葉

「茶事は客だけじゃなくて、いかに亭主が楽しむか」。


連載:早春の茶事 Part2 へ続く


Shiho Kanai

Art Director, Gallery Rin



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